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東京地方裁判所八王子支部 平成3年(ワ)543号 判決

主文

一  被告は、原告北原洋に対し、金一億三五一五万六八六四円、原告北原浩一に対し、金二二〇万円、原告北原八重子に対して金三四九万八六三三円、及び右各金員に対する昭和六二年一一月二〇日から各支払いずみまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告三名のその余の請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用は、これを三分してその一を原告ら三名の、その余を被告の各負担とする。

四  この判決は、原告ら勝訴部分に限り、仮りに執行することができる。

事実及び理由

第一請求

被告は、原告北原洋に対し、金二億〇六六六万九二五四円、原告北原浩一に対し、金五五〇万円、原告北原八重子に対して金五七二万〇七〇四円及び右各金員に対する昭和六二年一一月二〇日か各支払いずみまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、事故当時一一歳の少年であつた原告北原洋(以下、原告洋という)が足踏式自転車で走行中横断歩道上で折から右折しようとした被告運転の普通貨物自動車に衝突されて脳挫傷、頭蓋骨骨折、外傷性脳内血腫等の傷害を負い重度の頭部外傷後遺障害等が残つた交通事故(以下、本件事故という)につき、原告洋及びその法定代理人親権者父である原告北原浩一(以下、原告浩一という)、同母である原告北原八重子(以下、原告八重子という)が被告に対して民法七〇九条、七一〇条の不法後遺責任を問うものである。

一  当事者間に争いがない事実

1  原告らの身分関係

本件事故の被害者・原告洋が昭和五一年二月二二日生まれの男児である事実、原告浩一、原告八重子が原告洋の法定代理人親権者父、母である事実

2  本件事故の発生

(1) 発生日時 昭和六二年一一月二〇日午後四時二〇分ころ

(2) 発生場所 東京都府中市片町二丁目一五番地先路上

(3) 被害車両 原告洋運転の足踏式自転車

(4) 加害車両 被告運転の普通貨物自動車(多摩四五ふ三二三六、以下、本件加害車両という)

二  争点

1  本件事故の態様

2  被告の過失の有無

3  原告洋の受傷状況、後遺障害

4  原告らの損害額、殊に原告洋の本件交通事故による損害額、介護費用

5  過失相殺―原告洋の過失の有無・程度

第二争点に対する判断

一  本件事故の態様について

乙第四、第五、第七、第八号証、第一二ないし第一六、第一九号証、第二〇号証の一、前記当事者間に争いがない事実、被告本人尋問の結果、弁論の全趣旨によると、被告は、昭和六二年一一月二〇日午後四時二〇分ころ、加害車両を運転して東京都府中市片町二丁目一五番地先の交通整理の行われていない交差点(以下、本件交差点という)を調布市方面から甲州街道方面に向かい時速約一八キロメートルで右折進行するに当たり、自車左前部を折から立川市方面から調布市方面(左から右)に横断歩道を足踏式自転車に乗車して進行してきた原告洋の頭部に衝突転倒させた事実が認められる。

二  被告の過失の有無について

乙第四、第五、第一二ないし第一四号証、第一九号証、第二〇号証の一、被告本人尋問の結果(被告本人は、第九回尋問(調書一二頁)で「この図(乙第一二号証)で言うと☆印(衝突地点)のちよつと手前、初めてそこで洋君を発見した」旨を述べている)、弁論の全趣旨によると、本件交差点には被告右折方向出口には横断歩道が設けられているので、右折進行する自動車運転者としては前方左右を注視して自転車乗車者を含む横断者等の有無及び動静に留意してその安全を確認して進行すべき注意義務があつたこと、被告は、本件交差点を右折進行するに当たり、右折開始前進路前方つまり立川市方面を全く見ておらず、衝突の寸前になつて初めて原告洋を発見したことが認められるので、被告が交通が閑散なのに気を許し前記注意義務を怠り、漫然、自転車乗車者である原告洋の存在及び動静に留意せず進行して本件事故を惹起こしたもので、被告には前方注視を全く怠つた点で本件事故につき過失があつたことが明らかである。

三  原告洋の受傷状況、後遺障害について

1  原告洋の受傷状況について

甲第五号証の二ないし六、同号証の九、一〇、乙第六、第九、第一七、第一八号証によると、原告洋は、本件事故により、右前頭葉挫傷、頭蓋骨骨折、右急性硬膜外血腫、外傷性脳内血腫等の傷害を受け、救急車で東京都立府中病院に運ばれ、開頭・浮腫除去・血腫除去等の緊急手術を受けた事実が認められる。

2  原告洋の後遺障害について

甲第三、第四号証、第五号証の一四、第一二号証、第五七号証、証人児玉真理子の証言、原告浩一本人尋問の結果、弁論の全趣旨によると、原告洋は、本件事故事故後東京都立府中病院、埼玉県新座志木中央総合病院、東京都立府中療育センター、心身障害児総合医療療育センターで入院治療を受け、平成二年七月一日症状固定となり、心身障害児総合医療療育センターの医師児玉真理子により、〈1〉頭部外傷後遺症(正常圧水頭症精神障害)、〈2〉外傷後癲癇、〈3〉左右大腿骨頭すべり症の後遺症があると診断されたこと、平成三年三月二六日には自動車損害賠償責任保険につき右各後遺症を併合して一級の認定を受けたこと、今日においても歩行能力が若干改善されているものの知的能力等の状況に大きな変化はなく、頭部外傷後遺症としての正常圧水頭症精神障害、外傷後癲癇があり、将来とも労働能力は完全に失われているほか、外傷後癲癇のため常時介護または危険な行為に及ばないような監視が必要であることが認められる。

四  原告らの障害額について

1  原告洋の損害額について

(1) 入院雑費 金一一五万四四〇〇円

甲第五号証の四、同号証の八、同号証の一八、第二一号証、原告浩一本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によると、原告洋は、本件事故の日である昭和六二年一一月二〇日から平成二年七月一日までの延べ合計九六二日間、東京都立府中病院、新座志木中央総合病院、東京都立府中療育センター、心身障害児総合医療療育センターで入院治療を受けたこと、その間の入院雑費は日額金一二〇〇円が相当であることが認められ、その合計金額は金一一五万四四〇〇円であることが計数上明らかである。

(2) 近親者付添い看護料 金一七五万九五〇〇円

前記(1)の各証拠及び甲第一〇、第五六、第五七、第五九号証によると、原告洋は、本件事故の日である昭和六二年一一月二〇日から昭和六三年一二月九日までの延べ合計三九一日間、東京都立府中病院、新座志木中央総合病院、東京都立府中療育センターで入院治療を受け、その間、主として原告八重子が勤務先中学校の関係者の配慮を得て付添い看護をしたこと、近親者の付添い看護料は日額金四五〇〇円が相当であることが認められ、その合計金額は金一七五万九五〇〇円であることが計数上明らかである。

(3) 平成三年四月一日から四年三月末日までの介護料 金二七六万八七五〇円

甲第二九号証の一ないし二八、第五三号証の一ないし三四、原告浩一本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によると、原告洋は、平成三年四月一日から平成四年三月末日までの間、東京都立府中養護学校で中学三年時に相当する教育を受け、この間、夏休み、冬休みを含む非登校日及び登校日でも下校帰宅後は家庭で療育を受けたこと、原告洋は、この一年間で延べ合計二二九日間職業的介護人の介護を受け合計金二一五万六七五〇円を支出し、その余の一三六日間は原告浩一、同八重子ら近親者の介護を受けたこと、右近親者の介護料は日額金四五〇〇円が相当であることが認められ、その合計金額は金六一万二〇〇〇円であること、よつて前記一年間の介護料総額は次のとおり金二七六万八七五〇円であることが計数上明らかである。

近親者の介護料 金4500円×136=金61万2000円

介護料の合計 金61万2000円+金215万6750円=金276万8750円

(4) 平成四年四月一日から七年三月末日までの介護料 金七八三万二九四七円

原告浩一本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によると、原告洋は、平成四年四月一日から平成七年三月末日までの間、東京都立府中養護学校で高等学校に相当する教育を受け、この間、夏休み、冬休みを含む非登校日及び登校日でも下校帰宅後は家庭で療育を受け、前記(3)と同様年間合計二二九日間職業的介護人の介護を受けること、職業的介護人の介護料基本料金は前記平成三年度に比較して五パーセントの上昇になつていること、その余の年間一三六日間は原告浩一、同八重子ら近親者の介護を受けることが認められ、年五分の割合による中間利息三年分をライプニツツ方式で控除すると、後記のとおり右三年間の職業的介護人の介護料は合計金六一六万六四七一円、近親者の介護料は日額金四五〇〇円として右三年間で合計金一六六万六四七六円であることが計数上明らかである。

職業的介護人の介護料 金215万6750円×1.05×2.723=金616万6471円

近親者の介護料 金61万2000円×2,723=金166万6476円

3年間の介護料の合計 金616万6471円+金166万6476円=金783万2947円

(5) 平成七年四月一日から原告洋の平均余命までの終生の介護料 金四八二一万四六五六円

〈1〉 原告洋が昭和五一年二月二二日生まれの男児であることは前記のとおり当事者間に争いがなく、同原告の平均余命は満一六年に達した平成四年二月二二日時点で五九・五六年(平成六三年九月まで)であることは公知の事実であり、第五六、第五七号証、原告浩一本人尋問の結果により、原告洋は、平成七年三月末日に東京都立府中養護学校を終了した後は終生(平成六三年九月まで)自宅家庭で療育を受けることが認められる。

〈2〉 甲第一号証、甲第五六、第五七号証、原告浩一本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によると、平成四年九月の時点で、原告浩一は、昭和一一年八月二六日生まれの満五六年であるが、原告洋及び弟の訴外北原真のためにも六〇年の現勤務先の定年後も稼働する積もりで平日においては原告洋の介護に当れないこと、原告八重子は、昭和二三年九月二日生まれの満四四年の中学校教員であるが、六〇年の定年に達する平成二一年三月末日までは教員として稼働する積もりで平日においては原告洋の介護に当れないが、定年退職後の平成二一年四月一日から満七〇年に達した翌年である平成三一年三月末日まで(それ以上の高齢で原告洋の介護に当るのは無理である)常時原告洋の介護に当ることができることが認められる。

〈3〉 それゆえ、原告洋の介護については、平成七年四月一日から原告八重子が定年退職する平成二一年三月末日までの一四年間は、年間で平日の二四〇日間(年間五二週で週休一ないし二日に国民の祝日、有給休暇等を加えると年間の休日数は約一二五日でその余の平日は二四〇日であることは公知の事実である)は職業的介護人が、その余の一二五日間は原告浩一、同八重子ら近親者がこれに当ること、平成二一年四月一日から原告八重子が七〇年に達する翌春平成三一年三月末日までの一〇年間は常時近親者である同原告が主としてこれに当ること、それ以後は全面的に職業的介護人がこれに当ると解するのが相当である。

〈4〉 甲第五一号証、証人児玉の証言、原告浩一本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によると、原告洋は食事、排泄等の日常生活は誰かの監視の下に一応自分でできるが、外傷後癲癇の後遺障害があり、危険防止の見地から、近親者不在中には専門家でなく家政婦でもよいから常に同原告の身近で行動を監視する職業的介護人が必要であること、会社員の原告浩一及び中学校教員の原告八重子は平日には午前八時に出勤し午後六時に帰宅するのでその間は原告洋のために所業的介護人が必要であること、原告洋の介護を必要とする程度が前記のとおり比較的軽度のものであるところから午前八時から午後六時まで一人の家政婦で介護が可能であること、家政婦(ホームヘルパー)の手当は午前九時から午後五時までで日額金八〇〇〇円、時間外手当が一時間毎に金一二五〇円(結局、一日午前八時から午後六時まででは金一万〇五〇〇円)であることがいずれも認められ、また近親者の介護料は日額金四五〇〇円と解するのが相当である。

〈5〉 そうすると、結局、原告洋の平成七年四月一日以降の将来の終生の介護料は、ライプニツツ方式により年五分の割合による中間利息を控除すると次のとおり合計金四八二一万四六五六円となることは計数上明らかである。

〔平成7年4月から平成21年3月末まで〕

年間職業的介護人の介護料 金1万0500円×240=金252万円

年間近親者の介護料 金4500円×125=金56万2500円

年間介護料 金252万円+金56万2500円=308万2500円

平成7年4月から平成21年3月末日までの介護料

金308万2500円×(11.274-2.723)=2635万8457円

〔平成21年4月から平成31年3月末まで〕

年間近親者の介護料 金4500円×365=金164万2500円

平成21年4月から平成31年3月末までの介護料

金164万2500円×(14.643-11.274)=金553万3582円

〔平成31年4月から平成63年9月末まで〕

年間職業的介護人の介護料 金1万0500円×365=金383万2500円

平成31年4月から平成63年9月末までの介護料

金383万2500円×{(18.929-18.875)÷12×6+18.875-14.643}=1632万2617円

〔平成7年4月から平成63年9月末までの介護料合計〕

金2635万8457円+金553万3582円+1632万2617円=4821万4656円

(6) 児童福祉施設費 金三九万七二〇〇円

甲第二二号証の一ないし一二、原告浩一本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によると、原告浩一は、原告洋のための心身障害児総合医療療育センターの二年分の施設利用費として平成三年二月二八日に金三九万七二〇〇円を支払つたことが認められる。

(7) 交通費等 金八二万四二五〇円

甲第七号証、甲第一三号証、原告浩一本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によると、原告洋のための入通院・外泊・家族の見舞い等の交通費(留守番祖母の上京航空運賃も含めて近親家族分も原告洋分として認めて差し支えない)は、金八二万四二五〇円を下らないことが認められる。

(8) 便所改造費等 金五一万二一一〇円

甲第一八号証の一、二、原告浩一本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によると、原告洋の本件事故の後遺障害の癲癇発作による転倒の危険防止のための自宅便所改修費等として金五一万二一一〇円を支払つたことが認められる。

(9) 将来の器具購入費用 金一三九万〇九〇三円

甲第一九号証の二、第五五号証、原告浩一本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によると、原告洋は本件事故により正常圧水頭症及び左右大腿骨頭すべり症の後遺障害があり、ヘルメツト、車椅子が日常生活上必要であり、これは二年に一回の割合で新品に更新しなければならないこと、ヘルメツトは一個金一万五三三〇円、車椅子は一台金一三万一八四〇円であり、年間の支出は金七万三五八五円であることが認められ、平均余命五九・五六年の間に要するこれら器具代金につき年五分の割合による中間利息をライプニツツ方式で控除して積算すると金一三九万〇九〇三円となることは計数上明らかである。

金7万3585円×{(18.929-18.875)÷12×6+18.875}=金139万0903円

(10) 逸失利益 金七九七六万四〇二二円

前記のとおり原告洋が昭和五一年二月二二日生まれの男児である事実は当事者間に争いがなく、前記三2認定のとおり原告洋は平成二年七月一日症状固定となり、〈1〉頭部外傷後遺症(正常圧水頭症精神障害)、〈2〉外傷後癲癇、〈3〉左右大腿骨頭すべり症の後遺症があると診断され、平成三年三月二六日には自動車損害賠償責任保険につき右各後遺症を併合して一級の認定を受け将来とも労働能力は完全に失われていることが認められ、甲第六〇号証の二(いわゆる賃金センサス平成三年第一巻第一表)によると平成三年度の男子労働者産業計学歴計企業規模計平均給与額は年間金五三三万六一〇〇円であることが認められるので、原告洋の逸失利益は、症状固定時の年令が一四年であるから労働可能年数を一八年から六七年までとして年五分の割合による中間利息をライプニツツ方式で控除して積算すると次のとおり金七九七六万四〇二二円であることは計数上明らかである。

金533万6100円×(18.493-3.545)=金7976万4022円

(11) 入院慰謝料 金三〇〇万円

前記三2のとおり原告洋は、昭和六二年一一月二〇日の本件事故事故後平成二年七月一日の症状固定まで通算九六二日にわたり東京都立府中病院、埼玉県新座志木中央総合病院、東京都立府中療育センター、心身障害児総合医療療育センターで入院治療を受けた事実、とりわけ受傷直後開頭手術を受け当初生死の境いをさまよつた事実が認められるので、後記原告洋の過失の程度等も勘案してその入院慰謝料は金三〇〇万円と解するのが相当である。

(12) 後遺障害慰謝料 金二〇〇〇万円

原告洋は、春秋に富む小学六年生の身で本件事故により重度の後遺障害を背負い完全に労働能力を喪失し将来の可能性の殆ど全てを奪われたのであるから、後記原告洋の過失の程度等も勘案して、その精神的苦痛を慰謝するには金二〇〇〇万円をもつてするのが相当である。

(13) 弁護士費用 金七〇〇万円

弁論の全趣旨によると、原告洋の法定代理人親権者父北原浩一、同母八重子は、本件訴訟の追行を原告ら代理人弁護士らに委任した事実が認められ、本件訴訟の難易、審理経過、後記認容額その他諸般の事情を考慮する本件事故と相当因果関係にある被告に負担させるべき弁護士費用は金七〇〇万円と解するのが相当である。

2  原告浩一の損害額について

(1) 慰謝料 金二〇〇万円

前記認定の原告洋の本件事故による受傷状況(とりわけ、受傷直後開頭手術を受け生死の境をさまよったこと)、その後の治療状況、後遺障害の状況、原告浩一の介護状況等に照らして、父である原告浩一が長男である原告洋の死にも比肩しうる多大な精神的苦痛を被つたことが認められ、これを慰謝するには後記原告洋の過失の程度も斟酌して金二〇〇万円をもつてするのが相当である。

(2) 弁護士費用 金二〇万円

弁論の全趣旨によると、原告浩一は、本件訴訟の追行を原告ら代理人弁護士らに委任した事実が認められ、本件訴訟の難易、審理経過、後記認容額その他諸般の事情を考慮する本件事故と相当因果関係にある被告に負担させるべき弁護士費用は金二〇万円と解するのが相当である。

3  原告八重子の損害額について

(1) 付添いのための給与減額分 金二二万〇七〇四円

甲第二〇号証及び弁論の全趣旨によると、原告八重子は本件事故により入院した原告洋の付添い等のため勤務先中学校を欠勤し、給与諸手当のうち金二二万〇七〇四円を減額された事実が認められる。

(2) 原告八重子の慰謝料 金三〇〇万円

前記認定の原告洋の本件事故による受傷状況(とりわけ、受傷直後開頭手術を受け生死の境をさまよつたこと)、その後の治療状況、後遺障害の状況、原告八重子の介護状況等に照らして、母である原告八重子が長男である原告洋の死にも比肩しうる多大な精神的苦痛を被つたことが認められ、これを慰謝するには後記原告洋の過失の程度も斟酌して金三〇〇万円をもつてするのが相当である。

(3) 弁護士費用 金三〇万円

弁論の全趣旨によると、原告八重子は、本件訴訟の追行を原告ら代理人弁護士らに委任した事実が認められ、本件訴訟の難易、審理経過、後記認容額その他諸般の事情を考慮する本件事故と相当因果関係にある被告に負担させるべき弁護士費用は金三〇万円と解するのが相当である。

四  過失相殺について

本件事故の状況は、前記一認定のとおり交通整理の行われていない本件交差点を右折進行しようとした被告車が横断歩道を足踏式自転車に乗車して進行してきた原告洋に衝突転倒受傷させたもの、即ち、交通整理の行われていない交差点における足踏み直進自転車と右折四輪車との衝突の類型であるが、甲第三〇号証、乙第七、第八号証によると、原告洋の自転車もその正確な速度までは明らかでないがかなり速度を出していたと認められること(なるほど、乙第一三号証によると乙第七、第八号証の供述者の下村、成澤両名は本件事故現場から約二六メートルの距離から目撃したものであるが正確な速度までは明らかでないがかなり速度を出していたか否か位は判断しうるものであり、また、甲第三八号証の一、二、第三九号証の一ないし五、甲第四〇号証の一、二、原告浩一本人の供述及び弁論の全趣旨によると、原告洋が本件事故前ずつと歩道を進行してきたとすると速度を出しにくいことが認められるが、原告洋が車道を進行してきて本件事故直前に歩道に上がり横断歩道を進行した可能性も十分考えられるところである)、乙第七号証、被告本人の供述及び弁論の全趣旨によると、原告洋も被告車の動静に少しでも注意を払い一旦停止するとか減速するとかして被告車をやり過ごすことにより本件事故を避けられた可能性があつたと認められること、しかしながら、反面、前記本件事故の態様からして、基本的には被告車は道路交通法三八条一項により自転車を含む歩行者があるときにはこれを保護するため一時停止をし、かつその通行を妨げないようにすべき注意義務があつたこと、しかるに、前記二認定のとおり被告は本件交差点を右折進行するに当たり右折開始前進路前方つまり立川市方面を全く見ておらず衝突の寸前になつて初めて原告洋を発見したという重大な過失があつたこと、原告洋は前記第二の一1、2(1)のとおり本件事故当時未だ一一歳の少年であつたことは当事者間に争いがなく成人に比較すると危険を認識する能力が劣つていたことは公知の事実であること等の事実があるので、これら諸事情を勘案すると、原告洋にも本件事故の発生につき斟酌すべき過失があり、その程度は一〇パーセントと解するのが相当である。

第四結論

以上によれば、原告らの本件請求は、原告洋については、前記第三の四1(1)ないし(10)の原告洋の慰謝料、弁護士費用以外の損害額の合計金一億四四六一万八七三八円から一〇パーセントの過失相殺をした後の額金一億三〇一五万六八六四円(一円未満切捨て)、(11)(12)の慰謝料額計金二三〇〇万円に(13)の弁護士費用金七〇〇万円を加えた総合計額金一億六〇一五万六八六四円から甲第三号証、弁論の全趣旨により認められる原告洋が自動車損害賠償責任保険により受領した金二五〇〇万円を控除した金一億三五一五万六八六四円とこれに対する本件事故の日である昭和六二年一一月二〇日から右支払いずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度で、原告浩一については、前記第三の四2(1)の慰謝料額金二〇〇万円、(2)の弁護士費用金二〇万円の合計金二二〇万円とこれに対する本件事故の日である昭和六二年一一月二〇日から右支払いずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度で、原告八重子については、前記第三の四3(1)の給与減額分金二二万〇七〇四円から一〇パーセントの過失相殺をした後の額金一九万八六三三円(一円未満切捨て)、(2)の慰謝料額金三〇〇万円、(3)の弁護士費用金三〇万円の合計金三四九万八六三三円とこれに対する本件事故の日である昭和六二年一一月二〇日から右支払いずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度で、それぞれ理由があるから認容すべく、その余は失当として棄却すべきである。

原告洋分 金1億4461万8738円×(1-0.1)+2300万円+700万円-2500万円=金1億3515万6864円

原告浩一分 金200万円+金20万円=金220万円

原告八重子分 金22万0704円×(1-0.1)+金300万円+金30万円=金349万8633円

(裁判官 太田剛彦)

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